連載・9 お料理エッセー・そら豆のひとりごと。
年越しそば。
大晦日といえば、紅白歌合戦と年越しそば。
大晦日は朝から、お母さんは大忙しだ。
煮しめ、昆布巻き、栗きんとん、手巻き寿司、フライドポテト、若鶏の唐揚げ、
お菓子にジュースに、かまぼこの細工。
買い出しも、家族兄弟がそろって付き合う。
まるでお母さんの番兵さんになったみたいだ。
それでも子どもたちが大きくなるにつれて、お母さんも、
「今年はもう何も作らないわよ」
「出来合いのものを買って済ませるからね」と宣言を始め、
それでもやはり大晦日には「やっぱり煮しめだけ作ろうかな」と立ち上がる。
年越しそばを食べる時間はいつなのだろう?
正確には、大晦日の夕食にいただくものなのだろうか。
それとも除夜の鐘を聴きながら、年を越す時に口に入れているものなのだろうか。
たぶん、その年最後の食事が、そばになればいいのだろうと思う。
大晦日の夕方、紅白歌合戦が始まるころには、お母さんが作った煮しめや昆布巻きがすでにできあがっていて、
ごちそうの最後の仕上げに、そばを茹でるわけだけれど、
そのそばをいただきながら、ぼちぼちと黒豆をつまんだりし始めてしまう。
本当は、大晦日におそばで済ませておけば、年が明けてからのごちそうが、
たくさんおなかに入って、お正月のごちそう気分を味わえるのかもしれない。
ひとり暮らしで、仕事を抱えていたときには、年越しもなにもあったものじゃなく、
「どん兵衛」というお湯を注いで3分のそばを食べたものだ。
それほど長くはない人生だが、いろいろな年の暮れを迎えている。
ひとりで意地をはって「どん兵衛」をいただいた年も、
家族でごちそうを囲んだ年も、
父が、買い置きしておいたお酒と数の子で前の晩から全部食べてしまって、
家族全員で非難ごうごうだった年も、
なんだかみんな許せそうな、年の暮れ。
今年の年越しそばは、乾麺から茹でて、油揚げと豆腐と大根を入れた汁を作ろうと思う。
世界中のたくさんの人たちと、年の暮れを静かに迎えたいと思う。