連載・4 お料理エッセー・そら豆のひとりごと。
お誕生日のスペシャルハンバーグ。
きょうは天皇誕生日。
誕生日の思い出メニューの話をしようと思う。
子どものころ、私の母は、とても料理好きだった。
結婚する前は忙しく働いていた女性だったので、料理はあまり知らなかったらしいが、
父と結婚してから、NHKの「きょうの料理」で一から覚えたのだという。
テレビ番組で学んだ料理は、「おふくろの味」とか「基礎の基礎をおさえる」というものではなく、
ときどきとても変わった盛り付けや味付けをすることがあった。
それも自分の家のやり方なので、ずっと長い間、「ほかの家とはなんかちがう」ということに、気が付かなかったものだ。
子どものころは、誕生日が近づくと、その日には自分の好きな料理を、
母にリクエストすることができた。
夕ご飯のおかずの決定権を握らせてもらうのである。
そして母はそれを、山盛りで作ってくれる。
きょうだいそれぞれに、好みのおかずがちがうので、これはとても優越感を感じられる、誕生日の特権である。
私の妹の大好物はハンバーグ。
母は、たくさんのひき肉を買って来て、早くから支度にとりかかる。
母のハンバーグは、「手でこねて丸い形を作る」という過程を省略してあって、
大きなボウルに入っているハンバーグのネタを、おたまじゃくしですくって、
そのままフライパンに乗せ、おたまでつぶして平たくしながら、焼く。
それでハンバーグのひとつひとつの形も大きさも、全部ちがう。
そして、小さめサイズである。
直径5センチくらいだろうか。
この平たいおせんべいのようなハンバーグを大皿に盛り、
自分の欲しい分だけ5枚でも6枚でも、とって食べる。
きょうだいで競争である。
食べながら、次のハンバーグが焼けてくる。
「たれ」は、ソースとケチャップをスプーンで混ぜたものが、
きょうだいたちの間で大流行していた。
これを妹がかきまわす。
おなかいっぱいいただいたあとにも、大皿にはハンバーグがたくさん残っている。
ここからがまたお楽しみだ。
母は、夕食の片づけが終わると、鍋にお湯を沸かして、醤油とみりんを入れる。
このあまじょっぱい汁のなかに、残ったハンバーグを入れて、
一晩漬け込む。
翌朝、鍋ごとあたためると、お醤油味の煮込みハンバーグのできあがりとなる。
私たちは母の、前夜と味付けを変えた、柔らかい煮込みハンバーグが大好きだった。
誕生日の夜、母にちょっとだけ、特別扱いされて、優先権をもらえる。
甘ったれのバースディプレゼントであった。