連載・13 お料理エッセー・そら豆のひとりごと。
うずら豆の甘煮。
俗に「煮豆」と呼ばれている、大きめの紅い豆の煮ものである。
私はこの煮豆が大好きで、
母も私たちが子どものころは、よく作り置きをしてくれた。
ちょっとおなかが空いたときに、冷蔵庫のいつものお茶碗に入った「煮豆」を、
ふたつみっつつまんだものである。
今では、家庭で煮豆が作られることがあまりないそうである。
私自身も、あまり作らない。
なぜかというと、まず第一に、手がかかるからである。
うずら豆は、保存にはいいが、乾物と呼ばれる部類に入る。
切り干し大根や、ひじき、高野豆腐、もこの部類に入る。
これは調理の前に、「水にひたしてもどす」という作業がある。
「明日、うずら豆を煮よう」と思ったら、前の晩に、豆を水にひたして、
一晩置く。それから次の日に調理することになる。
昔の人は、とてもゆっくりしたペースで生きていて、
こういう調理方法が苦にならなかったのかもしれない。
現代人は忙しすぎて、「食べよう」と思った瞬間から、
待てたとしても3分だけなのかもしれない。
「作ろう」と思ってから15分で調理ができないと、
どうにも「やる気」が失せてしまうのだろうか。
以前にも、煮豆を作ろうと思って、夜のうちに水に豆をひたしておいたが、
翌朝、突然の来客があり、何時間も豆を煮ているような時間を取れなくなってしまった。
これではもったいない。
あしたの予定も「忙しい」の言葉で埋め尽くされているようなスケジュールノートに、
「煮豆」を書くのもしのびない。
いつか、時間の余裕ができたら、じっくりと、ことことと、豆を煮たいものだ。