連載・12 お料理エッセー・そら豆のひとりごと。
とうふの田楽。
大学生のころ、同じクラスの友達で、とても料理好きの女の子がいた。
大学に入れば、ほとんどの学生が、アパートでひとり暮らしを始めたから、
お料理が好きか、得意か、ということは、生活に大きな差をもたらしたかもしれない。
たとえば、昼食にしても、自分で作ってお弁当を持ってくる生徒と、
学生食堂でBランチを食べる生徒とでは、決まった仕送り額の中で、
ずいぶんな差が出たと思う。
私は、目玉焼きやお味噌汁くらいは作れたが「料理好き」とまで行かなかった。
勉強とクラブとゼミとで学生生活が精いっぱいだった。
その友達は、趣味でお料理とお弁当作りをしていたので、
契約を結んだ。
彼女が一食100円で、毎日お弁当を作って来てくれる、というのである。
これはすぐに飛びついて、毎日彼女に100円払って、
彼女の手料理を堪能した。
契約自体は、それぞれに学業が忙しくなって、途中で終わりにしてしまったが、
彼女のアパートに遊びに行ったときには、手料理をごちそうになって、
それが4年間続いた。
ときには、彼女が、何かの料理の研究に凝っていて、
その味見役を毎日することになる。
それが、「とうふの田楽」だった。
どうもとうふの焼き具合と、田楽味噌の調合の具合に「秘訣」がある、
というより彼女なりの「秘訣」を編み出したかったらしく、
毎日毎日、木綿豆腐を買って来ては、とうふを焼いていた。
味付け味噌も、赤味噌、白味噌、ブレンド、などなどあり、
とうふもオーブンで焼いたり、フライパンで焼いたりしていた。
田楽というと彼女を思い出す。
木綿豆腐を適度な厚さに切り、フライパンやオーブンで焼く。
このとき、ひっくり返しやすいように、竹の串を二本差しておくとよいらしい。
ほどよく焼けたところに、味のついた味噌を塗って、
もう一度、焼き目がついて軽く焦げがつくまで焼く。
これが、とうふの田楽である。
もっとも、彼女に言わせたなら、もっともっと奥深い「何か」を話してくれるのだろうけれど。