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短編小説・初戀

短編小説・初戀

そのころ、月の夢をよくみたと思う。

夜空に浮かぶ、大きな丸い満月で、
夢の中でわたしは、その月を追いかけていた。

アパートの角を曲がって、
一軒一軒ドアベルを鳴らして、
尋ねて探していくけれど、
どうしてもその人に追いつけない。

そんな夢ばかり見ていた。


初夏の晴れて乾いた日に、
朝刊を読んでいたときだった、庭先で。

彼は音もなくわたしの心の風景に立っていた。

とにかくまず、嫌いになった。

とにかく彼は、強かった。

仕事も、勢いも、誰からも好かれて、
身のこなしも、言動も、圧倒的だった。

圧迫された。

明日も彼にまた会わなければならないのだろうか。

突然の嵐は、熱風とからから高笑いする彼の勇ましい声だった。