連載・76 いちご

お料理エッセー・そら豆のひとりごと。 
春の風は、日々の風景の彩りまで、かえていく。
空の青が、淡いかすみがかった、水彩絵の具の青になる。
ただただ茶色じみていた木々に、ほっと灯ったように、淡い緑色が色づき始める。
花の色はまだつぼみ、つぼみの色は濃いピンクで、花びらを開き始めると、まだまだ薄い絹糸の色である。

街にも、食卓にも、市場にも、色が灯り始める。
春キャベツのほんのりとした柔らかそうな緑色。
南の国からさっそく運ばれてきたバナナの黄色い温かい色。
そして、赤くほんのり灯るのが、いちごの色である。

以前には、ハウスで作られるいちごの旬は、真冬であった。
遠く、年末のクリスマスケーキには、いちごが欠かせない。
クリスマスケーキにいちごを乗せるために、たくさんのハウスは雪に包まれたまま、その家のなかで、イチゴを温めてきたのだ。

早春のこの時期も、いちごの旬である。
これも、ハウスで作られたものだ。
その昔、「硝子庭園」というと、なにか守られた桃源郷のような印象があった。
その「硝子庭園」のなかで、真っ赤ないちごが、宝石のひとしずくのように、温められて、育まれてきたのである。

甘くて、すっぱい。
このごろは、甘くて大きな粒や、ちょっとすっぱくて小さな粒も、まさに粒ぞろいである。
大好きないちご。
今年も白い花が、赤いいちごに、大きく育っていく。
ああ、ほら、いちごの葉っぱって、ふちの色がほんのり赤い。
ぜんたいで、ほんのり春の色に染まりながら、いちごは、その小さな粒で、甘く清らかな、春の想いを、伝えてくれるのだ。