2015年3月24日火曜日

NHK「マッサン」第24週「一念岩をも通す」感想。

朝の連続テレビ小説「マッサン」も、いよいよクライマックスを迎えている。
政春たちは、戦争が終わって3年目を迎えている。
エリーは、政春がプレゼントしてくれた洋書を読んで、リラックスして暮らしている。
娘のエマは、英語を活かして、進駐軍の通訳や翻訳の仕事をしている。
政春は、というと、戦争中は海軍におろしていたウイスキーであるが、戦争後は、アメリカの進駐軍におろすことになった。
そして、占領下、復興後、という時宜のなかで、ウイスキー販売の自由化のときを迎えようとしている。

これは、政春にとって、チャンスのときであるという。
戦争中も、占領下にあっても、ウイスキー、アルコールの製造、販売は、厳しい規制のなかに置かれていたものと思われる。

しかし、自由化となれば、規制の枠を取り払って、政春の好きなウイスキーを造ることができる。
政春はこれを機に、これまで目指してきた一級ウイスキー造りに取り組む決意をする。

「ようやく」というところであろうか。

政春は50歳を迎えるころになっている。
戦争の時期は長かっただろうが、その分、ウイスキーは熟成することができて、原酒の樽も、たくさん貯蔵できた。

ウイスキーは、いくつかの原酒の樽を、ブレンドして造っていることは、視聴者にはすでに、おなじみの知識となっている。
これだけたくさんの原酒の樽があれば、いろいろな組み合わせでウイスキーを造ることができるだろう。
また、醸造年数が重なっているほどよい、ということなので、政春にとっては、長い年月をかけて、環境を整えたことになる。
これらの恵まれた環境を造ってきたのは、まぎれもなく政春自身の努力である。
仕事というものは、「時間をかける」ことが、とても大切な要素であるだろう。

一級ウイスキーを造ろうとしたそのとき、戦争に行っていた甥の悟が、シベリアから帰ってくる。
悟にウイスキーの仕事の説明をしながら、政春はなにげなく「こちらは今たくさん出回っている三級ウイスキーで、言ってみれば偽物だ」という。
しかし悟は怖い顔をしていう。
「酒に本物も偽物もあるのですか」
政春は驚く。

悟の、シベリア抑留体験を聞き、またシベリアから日本に帰国したときに、悟は三級ウイスキーを口にして「ようやく許された気持ちになった」という話もきく。

そのとき、政春は、気づくのである。
「誰がどんなふうに、自分の造ったウイスキーを飲んでくれるのか」
そして「ウイスキーを飲んだ人が、どんな気持ちになるのか」ということである。

戦後、「復興」は、大きなテーマであったようである。
国も街も人の心も、大きく荒廃してしまっていた。
政春はようやく、「今この時に」ウイスキーがどのような役割と使命を持っているのか、気づくのである。
これは、一種「ニーズに気づく」ということでもあるが、時宜、時代、人々の気持ちに気づいたということでもある。

そして政春は、たくさんの人々の「命の水」となる、安くておいしいウイスキーを造ろうと決心する。

若いころはあんなに「本物を造りたい」「偽物で妥協したくない」と言っていた政春が、なぜか、今回は三級ウイスキーを造ることを決心する。

この理由は、さきほど述べたように、時代、ニーズに気づいたから、時代、ニーズが変化したからだろう。
また、海軍や進駐軍に出していた時に、「実際にたくさんの人々に飲んでもらった」という体験も大きかったと思う。
どんな人々がどんなときに飲んでくれるのか。
体験が、仕事にはものを言う。

また、政春は、父のアドバイスも素直に聞くことができる。
そして、戦死した一馬の残した、品種改良した大麦で造った原酒にも助けられる。

ようやく50代になって、「独り善がり」を克服して、たくさんの人々に支えられていることに、気づいたのではないだろうか。

しかし、人というのは、年齢を重ねて、経験を重ねて、実力を備えるまでは、ある意味必死で、なかなか「ありがたみ」に気づいたり、感謝という言葉で、譲ったりはできないものなのだろう。

できあがった三級ウイスキーは、問屋さんを集めた試飲会で、高く評価される。
こんなうれしいシーンは、半年間「マッサン」を見てきて、初めてだったように思う。
「どうしてこんなに長くかかってしまったのだろう?」とも思う。
けれども、「男のサクセスストーリー」の「サクセス」は、やはり人生の最終章にくるものなのだ。
一生かけて尽力した、結果なのだ、と思う。

たくさんの歳月と山も谷も越えて、ここまでやってきたことを、私もひとつひとつ思い出した。

マッサン、成功おめでとう!