朝の連続テレビ小説「マッサン」。
主人公のエリーと政春も、戦争が日ましに深まってくる状況を迎えている。
年齢はふたりとも、50歳近い。
前の週で描かれた、政春の後継者である一馬が出征してから、二年が経っている。
北海道でも空襲が始まる。
私は北海道にいたので、戦争に関するいくつかの知識はあるが、確かに、日本の首都から遠い北海道では、空襲はそれほどなかったらしい。
しかし、出征も、食料不足も深刻であったようである。
東京や大阪では、大規模な空襲があったようだ。
また、この週では、広島に新型爆弾が落とされる。
原子爆弾である。
「マッサン」のドラマでは、新型爆弾についてはそれほど描かれていないが、当時は、北海道にいては、原子爆弾に関する情報や報道も、それほど詳しくはなかったのだろうと思われる。
しかし、政春の実家は広島であるから、心配するのも無理はない。
政春は、次代に引き継ぐものとして、ウイスキーの樽を避難させる。
また、社長として、社員の安全と、避難の対策を立てる。
戦争はいつ終わるのか。
私が、ある戦争体験者の高齢のかたに尋ねてみたところ、「戦争がいつ終わるのか考えたことがなかった」「戦争は終わらなくてずっと続くのだと思っていた」と言っていた。
朝の連続テレビ小説でも、他のドラマでもそうであるが、天皇陛下の玉音放送の場面が出てくる。
それは、まるである日突然のものであったようだ。
政春もエリーも、ウイスキー工場の社員たちも、一室に集まって、ラジオの前に座って、放送を聴くことになる。
ある日突然、戦争が終わるのである。
しかし、その直前に、一馬の戦死の一報が入っていた。
政春たちは、悲しみを乗り越え、前に進もうとする。
ここから、戦争からの復興が始まる。
私は、さまざまなテレビや小説で、戦争に関する表現や情報を見てきたけれども、今回の「マッサン」は、戦争直後の状況が、本当によく描かれているように思う。
なぜか「学んでおこう」という気持ちも、視聴者のひとりとして、強くなっている自分に気づいていた。
政春は、戦争中には日本の海軍に販売していたウイスキーを、今度は、アメリカの進駐軍におろすことになる。
戦争というのは不思議なものである。
政春は、結局のところ、戦争のおかげでウイスキーの製造を続けることができた、ということになるだろうか。
それでも、敗戦のあと、というのは、本当につらいものである。
そして、エリーの心の傷である。
国際結婚であり、戦争中には「敵国人」として生きなければならなかったエリーは、三年間も、工場の敷地内から一歩も外に出ることができなかった。
さらに、自宅に忍び込んできた、子どもの泥棒に「アメリカ!」と呼ばれ、包丁をつきつけられてしまう。
政春は、まず工場を立て直し、社員を守り、娘を守り、そのあとにようやく、妻のエリーの心の傷に気が付く。
戦争終了の放送のあとには、倒れて丸一日床についたエリーであったが、その後、自由の身となっても、戦争中の恐怖が身に染みてしまい、外に出られないのである。
このとき、クマさんが、政春に「エリーの戦争を終わらせてやれ」と忠告する。
私は、この言葉が心に染みた。
実際の戦争が終わっても、心のなかでは、戦争は続くのである。
それは、日本の戦争体験者の誰もが言うことである。
いや、口にすることもできない、心の傷となって、今も、心のなかの戦争は続いているのかもしれない。
政春は、エリーの旧友・キャサリンが余市の近くの小樽に来ているので、エリーを伴って、小樽に行くことにする。
このとき、腕を貸してあげる夫としての政春の姿は、本当に頼もしい。
考えてみれば、キャサリンも「エリーはよくがんばったな。どんなときでも笑顔でいたんでしょう」という。
気丈なエリーだけに、そんな本当のことを言われては、心もときほぐされずにはいられない。
たくさんの人たちの手助けを得て、エリーは心に平和を取り戻す。
政春の「男のサクセスストーリー」は、後継者を戦争で亡くし、社員を守り、家族を守り、そして、妻であるエリーの心の傷をいやして、男の役割を果たしていくのである。
「待てば海路の日和あり」戦争という時代に巻き込まれた人々の、本当の気持ちなのだろう。
きっと待っていれば、いつか戦争は終わる。
忍耐と努力の、戦争の時代であった。
エリー、よくがんばったね。