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NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」第19週「鞠子、平塚らいてうに会う」感想。

NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」第19週「鞠子、平塚らいてうに会う」感想。
8月も、お盆を過ぎて、夕方には雷雨の起こる、日本らしい夏となった。
大きな背の高いひまわりの花が、あちこちに咲いている。
NHK朝の連続テレビ小説も、盛り上がっている。
登場人物たちに、次々に大輪の花が咲いてきている。
半年間も長く、女性たちの半生をテレビドラマで見続けていると、やはり女性の人生は、前半の若い時代もいいけれども、ライフイベント、人生の山場を迎える時期があって、そして、仕事もプライベートも実を結んでいく、というのは、本当に美しい出来事だ、と思う。

ととちゃんたち、三人姉妹の、次女の鞠子が、結婚を迎えることとなった。
戦後の闇市で出会った、実直で誠実な男性・水田が、その夫となる相手である。
私は、この水田さんが、とても立派で頼もしい男性である、と思った。
不器用でちょっと弱虫、というようなキャラクターで登場したのであるが、一目ぼれの女性・鞠子に対しては、「僕とお付き合いしてください」と、きちんと言えるのである。
これこそ、男のなかの男、だと私は思う。

近年は、女性であろうと男性であろうと、積極的に恋愛に飛び込むのが一般常識となっているかもしれない。
でも、やはり、男性が意を決して、プロポーズする、というのは、本当に男らしい、まさに男らしい、一生一度の瞬間、というかんじがして、すごくかっこいいと思う。

ところが、この水田のプロポーズに対して、鞠子は「考えさせてください」と、答を先送りしてしまう。
水田は、「自分では不足なのかも?」と悩んでしまう。

女性が、結婚をしようかどうか、というときは、やはり、人生の次のステージに向けて、大きな挑戦をしようかどうか、という選択のとき、そして勇気をふりしぼるとき、だと言えると思う。

大好きで大好きで、ともかく胸に飛び込んでいくような恋愛・結婚も、あるのかもしれない。
けれども、鞠子の場合は、自分の人生、生き方を、よく吟味して、考えて考え抜いて、最良の選択をする、というタイプなのだと思う。

やはり、結婚は、大きなビジネスにとりかかる、というような、とても大きな決心がいるものではないか、と私は思う。
ひとつの家庭を築くこと、ひとりの男性の妻となること、子どもを持つこと、どれをとっても、一生の大事である。
こうした大仕事を始めるかどうか、できるのかどうか、自分に自信がなくなったり、飛び込む勇気がなかったり、するものだろう、と思う。
それだけ、この結婚に対する、重要度も期待も大きい、ということだろう。

鞠子は、作家になりたい、という目標もあって、大学は無理を言って、文学部で勉強させてもらっていた。
「それなのに、まだ作家になれない」というあたりも、鞠子の迷いだと思う。

先日、ヒロイン常子の結婚、つまり星野からのプロポーズの話のときも、私は考えてこう書いた。
ひとつの目標を持って、生きてきた女性にとっては、「挫折して結婚する」ということになりかねない、ということである。

鞠子にとっても、作家になることをやめて、出版社での仕事もやめて、専業主婦になる、ということだから、相当の挫折感があった、と思われる。
そして、書いた文章を、カリスマ編集長・花山から、「全然ダメ」と言われて、ますます落ち込んでしまう。

大好きな人からプロポーズされて、結婚も近いというのに、憂鬱で落ち込んでいるのだから、不思議なものである。

私は以前から、こうした、エンゲージブルー、というものを、考えている。
私は、エンゲージブルーというのは、アイデンティティの変容の時期なのではないか、と考えている、というわけである。

君子お母さんの家庭にいた、「娘さん」というアイデンティティを、水田さんの「妻」というアイデンティティに、変えていかなければならない。
「作家の卵」というアイデンティティを、「たまきの母」というアイデンティティに変容させていかなければならない。

そこには、挫折をともなう痛みもあるのかもしれないが、新たな人生への準備として、自分自身を整える、という意義があるのではないか、と私は思う。

「母になる」というあたりでは、マタニティブルーも、アイデンティティの変容の時期、と捉える、という意味である。

この時期に、鞠子は、すごくがんばった、と思うのだが、作家になりたいという、夢を持つきっかけとなった、師匠に会いにいくことになる。
「原始、女性は太陽であった」と書いた、平塚らいてう女史である。


出版社に勤めていたので、実際に会う機会があって、本当に幸せなことだ、と思う。
編集者として、仕事で会うことになるのだが、相当の苦労はする。
そして、会って、話をすることになる。

短い会話、短いシーンであったが、とても印象的で、象徴的であった。

というのは、平塚らいてうが、若い時分には、女性解放運動をしていたものが、戦争をきっかけに、平和活動に転向した、という話だからである。
そして、若いときに主張していたことを「あれ、やめたの」とあっさり言っている。
そして、「人は変わるの。でもね、変わるって、とてもいいことなのよ」と、やさしくゆっくりと鞠子に語り掛けるのである。

鞠子は、ちょうど、「娘さん」から、「奥さん」に、変わろう、としている時期である。
変わろう、という心と、変わってはいけないのではないか、という主義貫徹の心が、戦って葛藤している状況である。
そのときに、人生の先輩から「変わってもいいのよ」と、やさしく語り掛けられて、心がすっと落ち着いていくのである。

そして、がんばった仕事は、鬼編集長・花山から、ほめてもらうことができる。
このときの褒め言葉が、鞠子の結婚へ踏み出す、自信になった、というわけなのである。

私は、結婚に悩んだときは、やはり、とことん悩んで、迷って、先輩の指導を受けて、たくさん本も読んで、自分の納得するまで、自分の気持ちに付き合うのが、一番いいのではないか、と思った。

そして、愛する水田に、承諾の返事をする。

結婚式のシーンは、本当に感動的だった。
大好きな家族に見守られて、新しい出発をしていく二人を、私もずっと見守りたい、本当に心から、「幸せになってね」という気持ちになることができた。

三人姉妹の物語はまだまだ先がある。
結婚して、家庭を持って、子どもも産まれた鞠子には、まだまだ人生もテレビドラマも続きがあるだろう、と思う。
悩み多き時期を、たくさんの家族や友達、先輩に相談して、愛に包まれて乗り越えた鞠子には、たくさんのこれからの幸せがあるだろう、と思う。

朝の連続テレビ小説には、女性のライフイベントが、彩あざやかに描かれる。
これからも、期待して、三人姉妹を見守っていきたい、と思った。