2016年5月2日月曜日

好きな人に好かれるために。

俺は、聡子ちゃんのことを見つけてから、一年間はプロポーズまで準備した。
俺はな、もっともっと、聡子ちゃんのことを知ってから、いろいろと近づこうとした。
しかし、聡子ちゃんは、俺のことに気が付かなかった。
俺は、遠くから見守っていた。
俺は思う。
高嶺の花になるべきだ。
彼女のことを、誰かほかの男に取られたら困る、と思って、俺は、焦った。
しかし、焦りは禁物、と思い、じっくりと近づいて、罠にはめよう、と思った。
できるだけ用心して、嫌われないように、そして、気づかれないように、そっと近づいていった。
男というものは、一度狙った獲物は、できるだけ離さないようにする。
せっかく俺の嫁さんになってくれたのだから、困らせないように、泣かせないように、できるだけ優しくする。
そして、嫁さんの好きなものは、なんでも手を出して、やってみる。
たとえば、ドラマが好きだといえば、ドラマを一緒に観る。
これは、嫁さんがひとりで楽しそうに観ているのが、気に入らないからだ。
それで、「おい、一緒に観よう」と言う。
しかし、嫁さんは、「わたし、ひとりで観る」と言ったりする。
そうすると、俺は困る。

俺は、嫁さんが、お料理をしているので、俺もお料理を覚えて、一緒にキッチンに立つようになった。
大事な嫁さんだから、女の子に、火を使わせるわけにいかない。
洗濯も、お食事の支度も、俺がやる。
奥さんは、きれいに着飾って、上品にお座りをしている。
まるで、猫ちゃんみたいだ。

しかし、ここは譲れない。
俺は、女性は社会参加すべきだ、と思う。
仕事を持つべきだ、と思う。
おうちでエプロンをつけて、おままごとをしているだけの人生では、彼女のためにかわいそうだ。
生きがいがある人生、ライフスタイルを送ってほしい。
彼女には才能がある。
その才能を、みんなの前に、堂々と出すべきだ。

俺と彼女は、戦った。
彼女は、おうちで専業主婦になりたかった。
内助の功を果たす、と言った。
教育理論も勉強して、家事も完璧にこなせる女の子だ。
ファッションセンスもいいし、お化粧もきれいにできる。
いつも身だしなみはきちんとしているし、お部屋もきれいに片付けることができる。
それは、うちの奥さんが、いい奥さんになりたいと思って、独身時代から、訓練してきたからだ。
うちの奥さんは思っていた。
「男と言うものは、結局は、奥さんに家にいてほしいものだと思う」そう言っていた。

俺も実は、奥さんが仕事で活躍するようになったら、ちょっとだけやきもちを妬いた。
しかし、俺は、乗り越えてきた。
それは、奥さんのことを、心底好きだったからだ。

何しろ、丸々一年もかけて、計画を練りに練って、公然とした仲になったわけだ。
そう簡単に手放すわけにいかない。
それなので、乗り越えることにした。

正直、奥さんが男のように仕事をするのは、耐え難いこともあった。
また、俺よりも、奥さんのほうが、えらくなって、俺はちぢこまった。
でも、それも乗り越えてきた。
なぜ、乗り越えられたか。
それは、奥さんの優しさと努力のたまものだ。

俺が困っているとき、奥さんはいつも、とても優しかった。
それに、すごくダメになっているときには、叱咤激励もしてくれた。
正直、ぶっとばされるくらい、叱咤激励された。
俺の奥さんは、優しくて、強い女性である。

男勝りというのではない。
男に負けないくらい、言い返せる、そういう度胸があるのである。

ぼくは、正直言って、男をものにしよう、とする方法をなんとか彼女から聞き出したい、と思う女性は、あまり好きじゃない。
なぜかというと、男をハンティングしようとしているからだ。
うちの奥さんは、俺をハンティングしようとはしなかった。
俺が、奥さんをハンティングしたのである。

おわり。