2023年10月5日木曜日

連載 39 「若草物語」 次女のジョー

朝倉聡子・日々のつぶやき 連載・39 名作文学に読む素敵な女性たち。 若草物語。作家志望の少女ジョー。 オルコットの名作「若草物語」。 16歳から12歳までの四人姉妹が成長していく物語である。 ここからは、ひとりひとりの性格や特徴に焦点を当てて考えていきたい。 まず一番に印象的なのは、次女のジョーである。 この少女は読書が大好きで、将来は作家になりたいと夢見ている。 性格は明るく活発で何事にも積極的、ちょっと「男勝り」と呼べる性質である。 それはジョー本人が自覚しているようで、自分が書いた脚本を四人姉妹で演じさせて、ジョーは騎士の役をしたりもする。 私自身も読書好きであり、将来は作家になってみようかしら、と夢見心地で思ってもいた。 だからジョーの行動のひとつひとつが、自分も経験のあることであり、思わずうなづいてしまうのである。 脚本を書いて、友達を集めて演劇をする、 おしゃれもせずにおこずかいで新しい本を買う。 お客様に行った家でまず本棚を見てうれしくなってしまう。 挙句の果てに、自分で書いた原稿を、家族にこっそり新聞社に持っていったりするのである。 まったく楽しめる。 そして、もうひとつ、作家志望の少女として、体験もしたことがあった。 それは、物語のなかで、ジョーのエピソードとしては秀逸なところであるが、 末娘(4番目の娘)のエミリーと仲たがいをしたときに、 怒ったエミリーが、ジョーの書いた原稿を燃やしてしまった、というエピソードである。 ジョーが5年もかけて書いた小説である。 当時はコピーの機械もない。手書き原稿である。 これを妹が、暖炉で燃やしてしまったのである。 気の強いジョーと、これも負けん気の強いエミリーは、よくこうしてぶつかったようであるが、どんなに怒ったとはいえ、原稿を燃やしてしまうというのは、あんまりではないか。 もし、私なら、絶対に許せない。悔しくて悲しくて、たとえ12歳の妹がしたことでも、夢にまで見てうなされると思う。 エミリーも大変なことをしてしまったと気づき、母親も姉たちも仲直りをさせようとする。 しかしどうしても、ジョーはエミリーを許せない。 「若草物語」には、人間としても女の子としても、守るべき礼儀や、心のしつけが描かれている。 作家志望のジョーが、妹エミリーの人間としての弱さを許して仲直りをする、その理由が印象的である。 ジョーが冬の凍った池でスケートをするときに、あやまろうとしたエミリーが追いかけてくる。 凍った池というのは、池の端はしっかりと厚い氷になっているが、 池の中心は薄いものだ。 友達が「中心は氷が薄いから行かないように」と注意する。 エミリーにはそれが聞こえていない。 ジョーはエミリーにそれを伝えなければといったんは思うのだが、 原稿を燃やされた憎しみが蘇って、黙ってしまう。 そして、エミリーは凍った池に落ちてしまうのだ。 原稿は、作家にとって命よりも大切なものである。 でももっと大切なものがあるのだ、と気づいたときに、 ジョーはエミリーを許せるようになる。 わが身にあてはめて、どうだろう? 少女たちの幼く激しい心の葛藤に、心洗われるシーンである。