2016年4月8日金曜日

NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」第一週「常子、父と約束する」感想。

毎朝、楽しみに観ている、NHK朝の連続テレビ小説は、秋から春までの放送「あさが来た」を終えた。
最終回のラストシーンでは、菜の花畑で再会する、夫婦の姿が描かれた。
視聴率もずっと高く、国民的な人気を維持した「あさが来た」の、このラストシーンには、感激の声も多いという。
本当によいドラマだった。
私も、大変な冬の季節を迎えていたが、その寒さを乗り越えるのに、本当に心の支えになってくれたドラマだった。
ありがたいことだ、と思う。

そして、4月からは、新しい季節、新しい人生、新しいドラマが始まる。
「とと姉ちゃん」は、前評判も高い、期待できるドラマである。

「暮しの手帖」という、昭和の時代に一世を風靡した、女性雑誌の創刊をした女性・大橋鎭子さんがモデルとなっている。
私は、どんなドラマになるのかな、とインターネットを駆使して、「暮しの手帖」や、モデルとなった大橋女史のことや、名編集長と呼ばれた花森安治氏のことも、おおまかに調べてみた。
それから、NHKのホームページもいろいろ読んでみた。

あれこれと、見どころの多いドラマのようである。
今回のドラマは、安倍政権の影響を大きく受けているようである。
「あさが来た」のときも、登場人物である、主人公の姉「はつ」の生き方や考え方、暮らし方を通して、「質素につつましく生活する」ということを、国民に訴えたかったようである。
今回の、「とと姉ちゃん」でも、「つつましい暮らしを大切にする」ということを、国民、特に女性たちに訴えたかったのではないか、と思う。
それは、安倍政権が、戦争をしようと計画していたからだと思う。

その戦争も無事回避され、パナマ文書も見つかって、世界情勢は大きく変わろうとしている。
そうした時期に、今さらながら、「質素倹約つつましい暮らし」を、国民に訴える必要はないのかもしれない。
言論統制はもう解けたのである。

しかし、放送が始まって、実際に見てみると、「昭和の暮らし」の、丁寧さ、美しさが伝わってきて、これは「見どころ」といっても差し支えない気がしてきた。
戦後の高度経済成長期が終わって、平成の世の中は、「もっと昭和の時代を見直そう」という気風が広がっている。
若い女性の間にも、「ナチュラルで丁寧な暮らし」が、静かに、自然に支持を広げているように思われる。

朝食の前に、鏡に向かって髪を梳かす、とか、ちゃぶ台を丁寧に拭くこと、きんとんを作るときに、ふかしてから裏ごしすること、着物は畳に広げて丁寧にたたむこと…。
あるいは、ふすまに空いた穴は、桜の花形に切った紙で、きれいに貼って補修すること…。
どれをとっても、「美しい暮らし」という気がする。
「暮しの手帖」の基本になった、三姉妹とご両親の、昭和の暮らしである。
こうしたところを、見どころとして見ていきたいように思う。

「昭和の暮らし」につながっていくところでは、目をキラキラさせて、見つめたいところがある。衣裳の担当が、映画監督・黒沢明氏のご息女である、黒沢和子さんである、ということである。
「暮しの手帖」の前身となった「スタイルブック」が、衣装、ファッションの雑誌であるので、ドラマ全編を通して、ファッションには、とてもとても、期待できそうで、うれしい、と思うのである。

見どころはまだまだある。
私が、疑問にも思い、問題にも思うのは、「とと姉ちゃん」の成長過程である。
つまり、母子家庭の父親代わりになった、長女の成長する姿である。
なんらかの理由で、ある家庭が母子家庭になると、残された親、母親が、長女、あるいは長男を、夫代わりにしてしまうことがある。
そうしないと、未亡人にとっては、家庭を形成できない、ということかもしれない。

これは、長男、長女にとって、アイデンティティの形成期に、大きな影響を及ぼすことは、みなが知っているとおりである。
幼いながら、夫代わりを果たさなくてはならない子どもが、いわゆる「子どもらしい成長期」を持つことができず、親に充分甘えることができずに、精神的な発達の偏りを起こしてしまう、ということである。

そして、小さいときはまだしも、大人になってから、ノイローゼや、うつ病になってしまう。

今回のヒロインの背景は、最初から、母子家庭の父親代わり、ということで、見ていてかわいそうでしかたないかんじがする。
このあたりを、脚本家の西田征史氏がどのような手腕で描いていくのか、注目されるところである。


見どころは、まだもうひとつある。
私が思う大きな見どころは、ヒロイン常子の恋愛と結婚である。
モデルとなった大橋女史は、結婚されていない。
しかし、「暮しの手帖」の名編集長・花森安治氏とは、かなり接近した仲であったようである。
仕事上の最高のパートナーでありながら、結婚はしなかった、恋愛という仲でもなかったことを、周囲の人たちにも世間にも、強く訴えているようである。
この姿は、ドイツの哲学者、サルトルと、女性論で名高いボーヴォワールのことを連想させる。
ボーヴォワールの著作「第二の性」は、フェミニズムを思う女性にとっては、必読の書である。

結婚しない、「恋人」とも呼びあわない、対等な男女関係がそこにはあったのではないか、と私には思われるのである。
このあたりで、現代社会の、結婚や恋人や、恋愛や男女平等に関わる、たくさんの不満や疑問に対して、ヒロイン常子が、あるひとつの「男女のありかた」「わたしたちの形」を、提案してくれるのではないか、と思うのである。

美しい、一冊の雑誌、一遍のエッセー。
清く明るく美しい昭和の時代に、新しい女性の生き方を広げていった、ヒロイン「とと姉ちゃん」このドラマに、期待したいと思う。