訪英中の天皇、皇后両陛下は28日、留学先だったオックスフォード大を訪れられた。約2年4カ月を過ごした留学生活を、天皇陛下は自著で「おそらく私の人生にとっても最も楽しい」時期だったと記されている。おふたりでオックスフォード大を訪問されるのは初めて。天皇陛下は訪英前の記者会見で「心待ちにしております」と述べられていた。
この日はロンドンからオックスフォードに向かう道路で事故があり、両陛下は予定から30分ほど遅れて到着された。
陛下は歴代の天皇で初めて海外留学を経験された。様々な国からやってきた学生たちと触れあった日々は、陛下が公務などの場で若者を励まし、海外との交流を促されていることの原点ともいえる。
初の洗濯、泡だらけに
陛下は1983年6月に渡英。ホームステイし英語を学んだ後、同年10月からオックスフォード大マートンカレッジに入学された。当時23歳だった。
生活は日本国内から一変。他の一般学生と同様、寮生活を始められた。洗濯やアイロンを自ら手掛け、初めてコインランドリーを使ったとき、洗濯物を詰め込みすぎて、床を泡だらけにされたという。
ただ、アイロンに関しては「それほど難しくもなく覚えられ」たと著書「テムズとともに」で記されている。
雨の日に買ったばかりの傘を盗まれたこともあり、著書で「雨足の激しい道を十分近くコレッジまでずぶ濡れになって帰った」と当時のことを記されている。
友人づくり、食堂が社交場
留学前の学習院大から水運について研究されていた陛下。オックスフォード大では、テムズ川の水運の研究に打ち込まれた。「ラテン語の史料を読まなければならないことが入学直後の私が直面した問題」とし、指導教授のアドバイスのもとで、各地の図書館などを訪問し、史料集めに奔走される日々だった。
寮では各国の若者たちと交流を重ねられた。特に食堂が新たな友人をつくる大切な場だったといい、陛下は今回の渡英前の記者会見で「自分の専門外の話や広範な知識を身につけられる貴重な機会」と振り返られた。陛下が弦楽四重奏のグループをつくられたのも、大学の食堂がきっかけだったという。
陛下は称号の「浩宮(ひろのみや)」から「ヒロ」と呼ばれ、仲間たちと部屋を行き来し交流を重ねられた。連れだってパブに行き、ディスコに入られたことも。自室には俳優のブルック・シールズさんのポスターなどを貼られた。日本では得られない経験を重ね、一般の学生と変わらない、自由な日々を謳歌された。
陛下は自著で留学を終える際の仲間との別れについて「いささか寂しいものであった」とし、オックスフォードでの充実した日々について「彼らの協力と心遣いがあったればこそ」と振り返られた。
皇后さま、ボート練習に
時期は重ならないが、皇后さまも結婚前、外務省の研修生としてベイリオルカレッジに留学。2年間の留学の日々は、両陛下にとって共通の話題で、皇后さまからは早朝にボートの練習に参加したことなどを話されるという。
陛下が自著で「青春の貴重な思い出」と振り返る留学は、その後の活動にも影響を与えているとみられる。皇太子時代から国際親善などのために海外訪問する際には、日程があえば、現地の子どもたちや学生と交流されてきた。
今回も26日に王立音楽大学を訪れた際、学生らに「皆さんのご活躍をお祈りしています。お体に気を付けて」と励ます言葉をかけられた。27日に訪問したV&A子ども博物館でも、両陛下は「アイデアが豊富で素晴らしいね」と子どもたちに声をかけられている。
陛下は訪英前の会見で、外国に滞在することは「日本の外に出て日本を見つめ直すまたとない機会」と指摘。「我が国の若い世代の人々が外国への関心を持ち続け、留学などを通して、世界中の国や人々との友好を深める機会が増えていくことを期待しています」と述べられた。(岩村高信、ロンドン=近藤彰俊)