吉野家ホールディングスなど日本企業が相次いでモンゴル市場に参入している。モンゴルは石炭の中国輸出拡大を原動力とした高い経済成長で国民の消費水準が向上している。地元企業と組んでフランチャイズチェーン(FC)展開などで事業拡大をめざす。
「いつの間にか牛丼が好きになって時々食べるようになった」。モンゴルの首都ウランバートルの中心部に位置する牛丼店「吉野家」。公園沿いのテラス席で同僚とランチを楽しむ女性は笑顔で話す。
牛丼の値段は味噌汁とキュウリの前菜が付いたセットで1万7000ツグリク(約800円)。ウランバートル中心部のオフィス街のランチ相場としては「値ごろ感がある」(利用者)。官公庁や大手企業で働く男女客らでにぎわう。
吉野家は2022年1月にFC展開でモンゴル1号店を開業。現地の消費者の好みを意識したマトン丼や1人用鍋のちゃんこセットを用意した。日本で定番の牛丼や照り焼きチキン丼、唐揚げ丼などの人気も高まっており、現在は3店舗を展開する。
長野県に本店を構えるラーメン店のたけさんもウランバートルにFCで2店舗を構える。大きく「みそ」と書かれたのれんをくぐると、店員が一斉に「いらっしゃいませ」とあいさつし、長野市の老舗「八幡屋礒五郎」の七味唐辛子を席に置くなど長野の味わいをアピールする。
「スパイシー味噌豚骨」などが好評で、男性店員は「長野と同じ味にこだわっている」と胸を張る。ビジネスホテル大手の東横インも19年にウランバートルに進出して、日本流のサービスで人気を集める。
石炭の対中輸出拡大で経済は好調だ。23年の実質国内総生産(GDP)成長率は7%に達し、ウランバートル市内はビル建設が相次ぐ。モンゴルの1人当たり名目GDPは5千ドル(約80万円)程度にとどまるが、外食などを気軽に楽しむ中間層は厚くなっている。
モンゴルではKDDIが1990年代に携帯電話サービスで進出し、大手のハーン銀行も日系の傘下だ。消費分野を中心に日本企業の進出が相次ぐが、23年3月時点の主要国・地域別の直接投資企業数をみると、中国が5000社近くで全体の54%を占め、日本は韓国(16%)に次ぐ5%にとどまる。
現地コンサルティング会社キュリオスの藤井一範代表は日本企業のモンゴル進出について「信頼できる現地パートナーを見つけることと、中国・韓国勢との価格競争に巻き込まれない強みを持つことが成功のカギとなる」と分析する。(ウランバートルで、多部田俊輔)