父にお弁当を作ることになった。
老齢の父で、食べ物の好き嫌いはないが、
何を出しても食べてくれないときがある。
こちらも仕事が忙しく、言葉をかわす余裕も、
おかずのリクエストを聞く優しさも、ないときがある。
最初は、お節料理の残り物を、タッパーに詰めただけだった。
しかしそのタッパーがお気に入りとなり、
この小さな箱に、何か詰めるのが、
毎朝起きる楽しみになったから、
自分でも意外な気がした。
つまり、お弁当箱が先で、おかずも父も、あとになってしまったから。
お節料理の残りは、たとえば筍の煮付だった。
そのあと、バレンタインデーには、キャンディーのように包んだチョコレートをいくつか入れてみたり…。
今朝は、昨夜ジップロックで一夜漬けにしておいた、
キュウリと茗荷の浅漬けを、箱に入れた。
なんのことはない、炬燵から身動きもしない父が、
ラジオを聴きながら、自宅のリビングで食べるのだ。
ピクニック気分と小さな色とりどりのお弁当箱が、
老齢の父への、時には重い介護も、
ウキウキと楽しいものに、してくれる。
ありがとう、箱。