2023年10月5日木曜日

連載 38 名作文学に読む素敵な女性たち オルコット作 「若草物語」の世界

朝倉聡子・日々のつぶやき 連載・38 名作文学に読む素敵な女性たち。 オルコット作「若草物語」の世界。 19世紀アメリカの小説「若草物語」。 全世界の少女たちに読み継がれ、受け継がれている永遠の名作である。 アメリカの、南北戦争の時代に、父親が出征してしまった、残された家族の、 特に四人姉妹の様子が描かれている。 著者のルイザ・メイ・オルコットは女性である。 女流作家の描いた、19世紀のアメリカの家庭の様子、特に女性たちの暮らしが丁寧に描かれている。 四人の姉妹は、一番上が16歳、一番下が12歳である。 年子で四人の娘を持った家庭は、どんなだっただろうか。 少女たちは、一番上の娘が16歳であるから、まだまだ子どもである。 ようやく大人への階段を、一歩また一歩と昇ろうとする姿が、 ういういしく、はつらつとしている。 時に背伸びをし、大人の女性の仲間入りを果たそうとし、 ときに子どものように集まっては騒ぎを起こして大笑いする。 この少女たちは、人生においてとても貴重な時期を生きているのだ。 最初のほうを読んだだけでも、両親から愛されて、教育を受けて育った子どもたちだということがわかる。 戦争中だということで暮らしは決して豊かではない、と書かれていて、 娘たちも、新しいドレスがほしかったり、アルバイトに出なければいけなかったりして、その面での苦心が綴られているが、 実際には、ハンナという召使(家政婦)の女性をやとっており、描写から見ても部屋の数も多いところから、それなりの中流以上の家庭であったことがわかる。 四人の姉妹の、それぞれの性格のちがいがとても楽しい。 私自身も姉妹がいるのし、従姉妹たちもたくさんいるが、 どうして同じ両親から生まれて同じ環境で育ったはずの女の子たちが、 こんなに性格がちがってしまうのか、不思議かつ楽しい。 四人の性格を描き分けて、それぞれが家庭のなかで果たす役割を描き分けているところにも、この物語の特色がある。 父親は戦争に出てしまっていない状態なので、物語は、四人姉妹と、母親と、ハンナと、近所の男性たちとで進められる。 ご近所の年配の男性やボーイフレンドも描かれているが、 女流作家の特徴として、やはり男性というものを克明に輪郭深く描いたとは言えない状態である。 それでもこの作品が、とても優秀であるのは、女性たちと女性社会をしっかりと描き切ったところだろう。 そして、少女たちでありながら、しっかりと女性社会を築き上げ、 それぞれの言い分も、性格も、ぶつかりあう時があるのを、「仲良く」という両親の教えのもとに、自己の弱点を克服して、協力しあうのである。 女性たちが本当に心の底から仲良くして、一致団結して困難を乗り越えることは、実際にはむずかしいのではないだろうか。 「若草物語」はそれをテーマにしていると思う。 そして、子どもでしかなかった少女たちが、まさに思春期に、困難に立ち向かいながら身に着けていくべきなのは「女の子たちが仲良く協力し合う」ということなのである。 少女たちの、女性として、人間としての成長の教科書となる、素敵な一冊である。