ぼくより。
今週は、朝倉聡子の夫である、ぼく、から、朝倉聡子の、職業婦人の体験談をお話しします。
まず、朝倉は、お茶汲みをいやだとは思いませんでした。
お茶汲みも立派な仕事である、と思って、おいしいお茶、おいしいコーヒーを淹れるように努力しました。
その結果、係長や課長から、「朝倉さん、お客さんに、ぜひ、あなたのお茶を淹れてください」と言われるようになりました。
ぼくの奥さんは、自分の生計を稼げればそれでいい、という考えでした。
大卒でしたが、えらくなりたいとは全く思いませんでした。
そして、北海道の田舎で一生、静かに暮らしていければいい、そして、お給料から、本を買ったり、映画を観たり、ただのテレビがあればそれで幸せ、という生活設計を立てていました。
それなので、東京に出ようとか、管理職になろうとか、まったく考えていませんでした。
安いOLに雇われて、それで幸せでした。
朝は、7時ごろ起きて、ごはんを食べて、8時半に出勤しました。
そして、夕方5時きっかりに帰りました。
彼女の仕事内容は、決められていて、長時間椅子に座っているだけではなく、カウンターでお客様のお相手もしていました。
それなので、座りっぱなしでなくて、足を動かしてお話もできるので、活動的でいい、と思っていました。
お金を扱うこともありましたが、いつも適切に扱っていました。
そうした仕事ぶりを見て、係長は「朝倉さんは、本当によくやってくれる」と言いました。
仕事の覚えぶりも、「乾いた砂が水を吸い込むように覚えていく」と褒められました。
そして、「朝倉さんに仕事を任せると、一、言うと、十、わかる」と言って、仕事仲間から一目置かれる存在になりました。
仕事上、お昼ごはんをごちそうになることもありました。
課長のところにきた、高級お重、これを、課長は「わたしは、奥さんの作ったお弁当を食べなければならないからね。いつも朝倉さんはよくやってくれるから、おなかいっぱい食べなさい」と言って、譲ってくれました。
服装は、質素なブラウスに、スカート。
お化粧は、学生時代に、お友達とお化粧ごっこをして覚えて、薄化粧で、上品にまとめていきました。
髪は落ちてこないように、バレッタで留めていました。
アクセサリーをしていくと、課長は丁寧におしえてくれました。
「あなたは、目がとても大きくてきれいです。だから、胸元から上には、輝くダイヤは目なので、ほかの宝石は要りませんよ」と言われたのです。
それなので、朝倉さんはすべてを察して、その後は、仕事には、アクセサリーをつけないで質素に行くようにしました。
これは、今でも続けている習慣です。
朝倉さんが、仕事で何かミスをした、というと、二回ほど、遅刻をした、ということです。
ぼくは、遅刻の理由について、詳しく聞いてみました。
すると、こういうことです。
前の晩、紅茶を飲みすぎました。
電車で8駅ほどの家で、ある高名な詩人が、文学の会を開いていました。
そこには、猫ちゃんがいました。
紅茶を飲みながら、猫をなでながら、文学について、熱く語っているうちに、終電になってしまいました。
家に帰ってきてからも、文学の話で頭が熱くなっていて、眠れなかったのです。
それで、次の朝、起きられなくて、遅刻をしました。
課長は、「もう少し、そのあたり、自己管理ができるようにしてくださいね」と、やさしく言いました。
朝倉さんは、隣の席に座っている女子社員には、丁寧に仕事を教えてあげました。
それは、女子職員マニュアル、というのをワープロで作って、印刷して、まとめて、申し送りをしたのです。
その後、その課では、この女子職員マニュアルが、定番となって、何十年も使われています。
朝倉さんは、手芸が得意です。
職場で大事に使っているワープロの、ワープロカバーを、手縫いで作りました。
帆布で、縫いました。
それを、夜勤のおじさんが、タバコの焼け焦げをつけてしまいました。
夜勤のおじさんは、朝倉さんにすごく謝りました。
朝倉さんは、アップリケを縫い付けて、「大丈夫です。かわいくなりました」
と言いました。
おじさんは、朝倉さんの優しさと思いやりに、とても感謝しました。
ある日、朝倉さんは、昼休みに、ハガキを書いていました。
お菓子の募集で、ハガキを送って応募すると、グアム旅行が当たる、というものです。
面白がった係長が「ぼくも送ってみたいから、ハガキくれる?」と言いました。
朝倉さんは、快くハガキをあげて、住所も教えてあげました。
そして、数日たったある日、係長が拝みながら「朝倉さん、ほんと、ごめんね」と言いました。
朝倉さんは、「どうしたのかしら?」と思いました。
「当たっちゃった」
そういうわけで、係長は、一週間のお休みをとって、家族全員で、グアムに旅行してきました。
朝倉さんは、こうして、職場で、皆さんに、幸せを分け与えていました。
ぼくは、こういう姿こそ、「女性は太陽である」ということだと、思います。
ぼくは、先週と今週の「とと姉ちゃん」を一緒に観ていて、彼女が、「本当に女性の仕事を取り巻く環境って、こういうものかしら?」と、疑問に思っているのを感じました。
彼女にとっては、社会は、あたたかく守られている場所です。
ドラマ「とと姉ちゃん」でも、もっといろいろな女性を描いてもいいのではないか、と思います。
おわり。