俺は、聡子ちゃんのことを見つけてから、一年間はプロポーズまで準備した。
俺はな、もっともっと、聡子ちゃんのことを知ってから、いろいろと近づこうとした。
しかし、聡子ちゃんは、俺のことに気が付かなかった。
俺は、遠くから見守っていた。
俺は思う。
高嶺の花になるべきだ。
彼女のことを、誰かほかの男に取られたら困る、と思って、俺は、焦った。
しかし、焦りは禁物、と思い、じっくりと近づいて、罠にはめよう、と思った。
できるだけ用心して、嫌われないように、そして、気づかれないように、そっと近づいていった。
男というものは、一度狙った獲物は、できるだけ離さないようにする。
せっかく俺の嫁さんになってくれたのだから、困らせないように、泣かせないように、できるだけ優しくする。
そして、嫁さんの好きなものは、なんでも手を出して、やってみる。
たとえば、ドラマが好きだといえば、ドラマを一緒に観る。
これは、嫁さんがひとりで楽しそうに観ているのが、気に入らないからだ。
それで、「おい、一緒に観よう」と言う。
しかし、嫁さんは、「わたし、ひとりで観る」と言ったりする。
そうすると、俺は困る。
俺は、嫁さんが、お料理をしているので、俺もお料理を覚えて、一緒にキッチンに立つようになった。
大事な嫁さんだから、女の子に、火を使わせるわけにいかない。
洗濯も、お食事の支度も、俺がやる。
奥さんは、きれいに着飾って、上品にお座りをしている。
まるで、猫ちゃんみたいだ。
しかし、ここは譲れない。
俺は、女性は社会参加すべきだ、と思う。
仕事を持つべきだ、と思う。
おうちでエプロンをつけて、おままごとをしているだけの人生では、彼女のためにかわいそうだ。
生きがいがある人生、ライフスタイルを送ってほしい。
彼女には才能がある。
その才能を、みんなの前に、堂々と出すべきだ。
俺と彼女は、戦った。
彼女は、おうちで専業主婦になりたかった。
内助の功を果たす、と言った。
教育理論も勉強して、家事も完璧にこなせる女の子だ。
ファッションセンスもいいし、お化粧もきれいにできる。
いつも身だしなみはきちんとしているし、お部屋もきれいに片付けることができる。
それは、うちの奥さんが、いい奥さんになりたいと思って、独身時代から、訓練してきたからだ。
うちの奥さんは思っていた。
「男と言うものは、結局は、奥さんに家にいてほしいものだと思う」そう言っていた。
俺も実は、奥さんが仕事で活躍するようになったら、ちょっとだけやきもちを妬いた。
しかし、俺は、乗り越えてきた。
それは、奥さんのことを、心底好きだったからだ。
何しろ、丸々一年もかけて、計画を練りに練って、公然とした仲になったわけだ。
そう簡単に手放すわけにいかない。
それなので、乗り越えることにした。
正直、奥さんが男のように仕事をするのは、耐え難いこともあった。
また、俺よりも、奥さんのほうが、えらくなって、俺はちぢこまった。
でも、それも乗り越えてきた。
なぜ、乗り越えられたか。
それは、奥さんの優しさと努力のたまものだ。
俺が困っているとき、奥さんはいつも、とても優しかった。
それに、すごくダメになっているときには、叱咤激励もしてくれた。
正直、ぶっとばされるくらい、叱咤激励された。
俺の奥さんは、優しくて、強い女性である。
男勝りというのではない。
男に負けないくらい、言い返せる、そういう度胸があるのである。
ぼくは、正直言って、男をものにしよう、とする方法をなんとか彼女から聞き出したい、と思う女性は、あまり好きじゃない。
なぜかというと、男をハンティングしようとしているからだ。
うちの奥さんは、俺をハンティングしようとはしなかった。
俺が、奥さんをハンティングしたのである。
おわり。