2016年9月10日土曜日

NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」第23週「常子、仕事と家庭の両立に悩む」感想。

NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」第23週「常子、仕事と家庭の両立に悩む」感想。

秋風が吹き始めた。
鈴虫の鳴き声も爽やかな秋の日々が続く。
どんな秋にしようか、と誰もが思うところだろう。
「読書の秋」「スポーツの秋」。
静かな秋の日々が、始まっていく。

朝の連ドラでは、秋風が吹き始めると、もう物語は終盤である。
常子の仕事と、「家庭」つまりここでは恋愛であるが、このあたりも、熟するときを迎えている。
サブタイトルでは「仕事と家庭の両立」となっているが、物語のなかでは、常子と、恋人・星野は、いわゆる「家庭」を築いている状況にはないようだ。
だから、「家庭」といっても、この週のテーマとしては、「恋愛」そして、「プライベート」というあたりだろうか。

常子が、社員を家族と思って一途に仕事をしていきたい、と思うときに、プライベートで、心動かされる恋人や子どもたちが存在する、ということは、とても悩むところだろう、と思う。
私はそういうときの、花山さんの言葉が印象的だった。
「不器用な人だな、君も」という言葉である。

子どものときに、父親と約束した三か条を一途に一生懸命に、実現しようとする、それは、常子の信条だろうと思う。
真摯に人生に向き合い、悩みながら、そのときそのときで、最善の選択をする、それが、常子の芯となる、いいところなのだろうと思う。

けれども、一生懸命、真摯に生きようとすればするほど、周囲とぶつかってしまう。

今週の放送では、メディア界、出版界の事情がよく描かれていた。
週刊誌と新聞のちがいや、全国紙という影響力の大きさである。
私は、このあたりで、「影響力」というものをもう一度よく学べた、と思う。
今、メディアに関わる人々も、これから関わりたいと思う人にとっても、とても大切な言葉が、新聞記者の国実さんから、聞くことができてよかった。

それにしても、赤羽根さん、というひとつのモチーフは、常子の人生に立ちふさがるもの、信念を通そうとするときの、すべての障害の象徴であるように思う。

私は、ドラマを観ることで、赤羽根さんの気持ちや状況がよくわかった。
また、社内で、いわゆる裏切り行為というのが出るわけだが、その社員の気持ちもよくわかったと思う。
その人にはその人なりの、状況や立場や気持ちがある。
ひとりひとりの気持ちを大切にすればするほど、信念を通すのは、とても高い理想となってしまう。
ひとりの女性が、「わたしはこういうふうにしたい」と思うことを、成し遂げようとするときに、これほどの障害にぶつかるのか、と思うと、「生きる」ということは、とても厳しい現実との、闘いである、と思わされる。

ひとりの女性が、「わたしはこういうふうにしたい」と思うこと、貫き通そうとすること、それは、身近なところから、仕事の範囲まで、多岐にわたって、あることだと思う。

たとえば、ダイエットに挑戦する。
「摂取カロリーを減らす」ためには、食欲であったり、友達からの誘いであったり、あるいは、「そんなことして何になるの?」という、自分の心のささやきであったり、たくさんの障害が出現するものだ。

また、常子のように、社会に何かを訴えようとする場合もある。
現代では、「食の安全」を訴えて行動する女性たちがいる。
意見がぶつかったり、あるいは、食品を扱う企業からの、いやがらせや抵抗を、もしかしたら、受けているのかもしれない。

何か大事な仕事を成し遂げよう、完遂しよう、としているときには、必ずこうした、障害が起こってくるものだ。

女性は特に、忍耐力を身に着けることが、とても大切なのではないか、と思うのである。

そうしたことを考えながらテレビドラマを観ていると、常子の一貫した、人生に向き合う真摯な態度が、目指すべき、女性の生き方として、明確に提示されているように思うのである。

そして今週は、恋人・星野との、家族ぐるみのお付き合いがあった。
ふたりの恋は、付き合いかたにしても、離れる理由にしても、いつも誠実で、まっすぐであった、と思う。

「仕事と家庭の両立」というのは、常子にとっては、仕事に対しても誠実に向き合う、恋人に対しても、誠実に向き合う、という、一貫した態度であったと思う。

坂口健太郎さんが演じる、星野武蔵は、若いころには、「葉っぱのあんちゃん」とニックネームで呼ばれていて、生真面目で、ちょっとあわてんぼうなところが、好感がもてた。
大人になってからの、坂口さんは、子どもたち、男の子と妹を、ふたりを従えて、父性愛を感じさせる、頼もしい存在になった。

仕事を一生懸命にしたあとに、星野宅のブザーを押して、子どもたちと愛する恋人の笑顔に出会うことは、常子にとって、とてもうれしい時間だっただろうと思う。

ロマンチックなシーンがたくさんあって、抒情を感じられた。
「月がきれいですね」の意味は、「ぼくはあなたが好きだ」という意味だと、そういう話があった。
夜空の澄んだ、明るい夜に、気持ちを伝えあう、そんな胸キュンのシーンは、朝ドラならではの、美しさであったように思う。

常子の、星野さんに包まれるときの、安心感が伝わってきて、そのときの、星野の確信をもった愛情が伝わってきて、とても素敵だった。

人生を丁寧に生きようと思う、充実させて生きようと思う、でも誠実に生きれば生きるほど、選択は重みを増して、ふたりの心に迫ってくるようだ。

私は、仕事に対しても、家庭に関しても、誠実に、真摯に向き合おうと思えば思うほど、不器用に悲しみも募ってしまう、そういう常子の生き方がとても好きである。

春から続いてきた、ひとりの女性の成長物語の終盤に、秋の景色は、ふさわしいものだ。
日々、秋の色に染まっていく太陽とともに、充実した秋と人生を、実らせたいものだ、と思った。
これからも楽しみに観ています。